天上の海・掌中の星

    “クライマックスにはまだ早い”

   *ワンピース以外の版権作品の登場人物が多数出て来ます。
    設定等、読み進みやすいようにと簡単な解説も致しますが、
    そういうのは苦手という方は自己判断にてご遠慮ください。
 


 渋く凝った作りとまでは行かないが、それでも落ち着いた雰囲気のする店内には、いつだって うららかな陽射しがほわり明るく満ちていて。書斎を思わせるような書架や、その持ち主の趣味が天体観測ででもあるものか、小ぶりだが本格的な天体望遠鏡などがオブジェ代わりに飾られており。カウンターの向こうに立つ、うら若き女性マスターの優しい微笑みと、丁寧な手際で淹れられるブレンドコーヒーが評判の、小さな小さな喫茶店。扉に提げられたカウベルが“カララン♪”と鳴って来客を告げれば、天女もかくやという ふんわりとした笑顔で、店主の愛理さんが“いらっしゃいませvv”とご挨拶をして下さって。少なくはない常連客をちゃんと把握しておいでのお姉さんは、

 「あら、ルフィくん。」

 ひょこっと、首だけをまずは店内へと覗かせた態度も格別幼い、でも準・常連客に間違いない、そんな坊やのお顔と名前もしっかりと覚えてらして。名指しをされて嬉しかったか、にゃは〜っと御機嫌な様子になって入って来た彼へ、

 「学校の帰りなの?」
 「うん。今日は部活が休みなんだ。」

 そう。高校でも柔道部に入ったんですってね、良太郎が話してくれたのよと、やんわり語る語調も、何とも言えず穏やかで。癒しの波動があふれ出すようなこの雰囲気に、ついついもう一度会いたくなってと常連になった客らが、引っ切りなしに訪のうお店…ではあるけれど、今は少々手隙の時間か、店内には坊や以外に客の姿もない。カウンターのスツールに腰掛けたまま、くるりとそんな店内を見回しておれば、何をと言わずとも、ホイップした生クリームを浮かべた飲み物、アーモンドココアが供される。スプレーと呼ばれるカラフルなチョコ粒のトッピングへ、それこそもっと小さな子供のように“わぁいvv”とはしゃいでから、

 「リョータロ兄ちゃんは?」

 訊いたと同時、表からのドアが開いて、

 「ただいま〜。」

 少々抑揚にコシと力のない声と共に、ひょろりとした青年が一人入って来るところ。出前に出たついで、モーニングかランチのトレイを下げて来たらしく、コーヒーカップやお皿に銀のポットを載っけたそれで、片手が塞がっているまま、不自由そうに開いた扉。今度は閉まるのへぶつかりそうになったのを、おっかなびっくり避けて入って来たところへと、

 「リョータロ兄ちゃんっ。」

 お元気そうな声が浴びせられ、え?と顔を上げたその拍子、
「あ、ルフィく、んって、あっ!」
 こっちに注意が逸れたその途端、何にもないところだったのに、それは見事に爪先を引っかけてのつんのめり。文字通り足を取られたその結果、前方目がけて飛び込むように突っ込む転びようがまた、

 「大胆だねぇ、いつもいつも。」
 「あははは…。」

 ばったりと倒れ伏した姿勢はほぼ“ばんざい”。下手に抵抗すると却って手や足を挫いてしまうそうなので、それでと身につけたこれでも防御なのだとか。それはいいが、手がやけに軽いと気がついて、
「あっ、トレイっ!」
 キョロキョロし出すお兄さんへは、ルフィがどうぞと自分の手をかざす。
「これでしょ?」
「あっ!」
 食器が無事なままなトレイが水平に差し出され、うわ凄い、あんな一瞬だったのによく受け止められたねぇと、双方共にフローリングの床へと座り込んでの会話が始まったところへと、
「リョウちゃん、ルフィくん。よければカウンターでお話ししてくださいな?」
 愛理さんのお声が飛んだ。ドアの前では邪魔だと言いたい訳じゃなく、
「そこでのお話じゃあ、わたしだけ遠いんですもの。」
「そだよねぇvv」
 悪びれず笑って立ち上がったルフィはともかく、そんな二人へ“あははは…”と乾いた笑い方をして見せたお兄さんだったのは、そうじゃないでしょという、一応のツッコミを内心で感じたからだった。





  ◇  ◇  ◇



 商店街の隅っこに、ともすれば遠慮がちに開いているお店。野上愛理という女性が切り盛りする小さな喫茶店を手伝うは、弟の良太郎青年だけ…ではあるのだが。

 おしゃべりが随分と弾んでのそれから、じゃあねと席を立ってった男の子を見送って。テーブル席へグリル料理のサイドメニューを置いて回ったり、フォークなどのカトラリーを補充したり。この時間帯のお務めをこなしていた良太郎の手を止めさせたのが、

  何か憑いてんぞ、あの坊主。

 どこからともなく、良太郎にだけ聞こえた声のせい。

「え? ルフィくんに?」
ああ。妙な気配がぷんぷんしやがる。
ぷんぷんは言い過ぎだよ、先輩。
何だと、このカメ野郎。
道着持っとったな。あいつ、強いんか?
クマちゃん、そればっかだねvv

 身のうちに居候中の4人のイマジンたちが、思うところを一遍に口にし出して、それぞれの主張がボルテージを上げ始める。怒りっぽいモモタロスは特に、誰彼構わず噛みつくところがあるものだから、冷静なウラタロスの乙に澄ましてるところにカチンとしたり、豪快なキンタロスの大雑把なところにムカッと来たり、少々奔放なリュウタロスの我儘勝手なところに…以下同文。あっと言う間に血管盛り上げてのお怒りモードへ入ってしまうものだから、こんなささいな切っ掛けからでも、デンライナーの中では頻繁に掴み合いの喧嘩へまで発展している始末。そっちはともかく、

 “何かって…まさかイマジン?”

 モモタロスたちは例外にするとして、現代の人々をこそり、陰からつけ狙う存在がいる。

  ―― 時の運行が乱れてしまい、喪われてしまった“未来”があって

 そんな歪みを生み出したのが“イマジン”という怪人。何でも望みを叶えてやると持ちかけて、強引な解釈でやっつけて叶えたとし、憑いた相手の過去を代償に受け取ってその時間へ飛び、そこで大暴れして“現在”を壊そうとする。そうすれば…その時点から先の時間の流れをねじ曲げれば、そんな時間軸での“実体”が得られる彼らだから…ということらしいのだが、その詳細まではまだ不明。彼らの人への働きかけを見つけては破壊行動を阻止し、そうすることで時間の運行が乱れた原因に辿り着ければ…と。喪われてしまった“未来”から取り残されてしまったらしい、ハナという少女が乗っていた、デンライナーという時間旅行の出来る列車に、良太郎もまた乗り込んでいる。

  ―― そんな中

 彼のお人よしさが由縁してか、それとも…忌まわしい破壊者な筈のイマジンという輩の中には、偶に なかなか人のいいのもいるせいか。望みとやらは保留のまんま、自分の中へと引き取った格好のイマジンが4人いる。何をどうと契約してないから叶えようがなく、したがって良太郎の過去の時間を寄越せとも言えない。そんな格好でい続けることを、保留状態でいることへの…お互いへの言い訳にして。見つけたイマジンの動向観察や調査は良太郎とハナが、過去で暴れるイマジンへの対処は、腕っ節の強い彼らに任せるという構えにて、事態打破に向けて頑張るチームが出来たのではあるが、

  チームだぁ?
  勘弁してよ、良太郎。
  わいは誰の助けも要らんで。
 ボクもvv だって強いんだもん。

 仲がいいやら悪いやら、それぞれの個性が極端過ぎてのことだろう、寄ると触ると揉めることも多かりしな、困った連中でもあって。

 『ま、まあまあ。皆、今はルフィくんに何が取り憑いているのかを…。』

 弱腰ながら、何とか執り成す良太郎のお言葉よりも、いい加減にしなさいっと繰り出されるハナの必殺パンチの方が、彼らには覿面の効果がある…というのもまた、ちょっぴり変わった編成の、彼らだったりするのだが………。





  ◇  ◇  ◇



 ルフィが良太郎と知り合ったのはひょんなことが切っ掛けで。自動販売機の下へついうっかりと転がしてしまった500円玉を、人目も気にせず、当時通ってた高校の制服が汚れるのも厭わずに、道へべったりと這うような、いっそ寝そべるような格好になりながら、それでも頑張って取ってくれた優しい人だったから。
『だって、小学生に500円は微妙に大金だもんね。』
 微妙に今ほど…お財布ケータイだのsuicaだのといった、電子決済の“eマネー”が発達してないころだったから。子供がそうそうクレジットカードを使える訳もなく、使いきりのプリペイドカードが関の山。それで困ってるんだと頑張ってくれたのへ、
『でもあの、俺、もう中学生なんだけど…。』
『え〜〜〜〜っっ。』
 そんなオマケつきで仲よくなったのが始まりで。それから少しして、良太郎さんは記憶喪失になってしまったお姉さんを案じて、喫茶店『ミルク・ディッパー』のお手伝いをすることとなった。他にも何だか事情があるらしいんだけど、ルフィもそこまでは訊いてない。

 “そういうのって、僭越っていうんだよな。”

 サンジが言ってたと反芻しつつ、鼻歌混じりに家路を辿る。借りていた小説の文庫本を返しがてらの寄り道は、ちょっぴり時間を忘れてしまっての長引いたらしく、

 「くぉら。」
 「あ、ゾロvv」

 駅前の商店街を離れたころには、陽も落ちた後の残照だけがしらじら漂う時間帯になっており。そうまで遅くなってもなかなか帰宅しない誰かさんを案じてだろう、保護者代理のお兄さんが、駅までの道をやって来ていたのと途中で鉢合わせたルフィだったりし。

「今日は部活がないから早く帰れるとか言ってなかったか?」
「ごめん。」

 一見しただけだと恐持てな印象もなくはない、肩も二の腕も首や胸板も、ぐぐっと堅そうな筋骨をまとっての引き締まってるお兄さん。短く刈った髪の色が緑なので、あれれ、でも実はメタルロックか何かのバンドマンなんだったりして? なんてな錯覚も招いてるお人だが、正確な肩書は、こちらのルフィさんの保護者代理にして、D家のハウスキーパーであり、腕をめきめきと上げてる真っ盛りの料理人でもあるという、ゾロというお兄さんだったりし。ええはい、名前だけで名字はないんです。ない訳じゃあないが、眞の名前なので滅多矢鱈に名乗っちゃあいけない。よって、人に自己紹介するときは“それでいいんだ暗示”をさりげなく掛けることを忘れない。そのお陰様で
『え? 名字ですか?それ。お名前は?』
 などと、聞き返されたことは一度もない。

 「…それはともかく。」

 あ、すいません。話を戻しましょうね。早く帰ると言っときながら、帰りが遅かったルフィくんを迎えに来た…んでしたっけね。

 「おまけに電話もしてこねぇしよ。」
 「うっかりしてたんだってば、駅前までは帰ってたから。」
 「? どういう寄り道だ? そりゃあ。」

 好きでやってる柔道は別として、それ以外は、このお兄さんと一緒にいられる時間をこそと優先するのが、言ってみりゃデフォルトになってるルフィだったのに。JRに乗って通っている高校から最寄りの駅まで戻って来ておきながら、なのに、そこでこうまでの長々と、一旦停止になってるなんて、これまでには例のなかったことだったので、怪訝そうに小首を傾げたゾロだったのだが、

 「…っ。」
 「え?」

 不意に…事と次第によっちゃあお説教も辞さぬという雰囲気だったものが、それらを全てかなぐり捨てて、向かい合ってたルフィを小脇に抱えると、そのまま数歩、いやさ数mほどもその場から遠のいた彼であり、
「ぞろ?」
「大人しくしてな。」
 応じた声が消えぬ間に、彼らが立っていた場所がバズンと弾けた。燃えやすい荷物や何やなぞ、何もなかったところに起きた、火柱も赤々としていた不自然な爆発。
「なんだ?」
「さてな。」
 身に覚えはねぇけどなと、口では言いつつ、だが、そちらを肩越しに見やる彼の雰囲気には、強靭な鋼の芯が入る。未練があっての暴走してか、それとも何物かに招かれてか、居るはずのない陽世界へ飛び込んでしまった陰体を、周囲に歪みを与える前に、叩いて封じて滅ぼす存在。

  ―― 翡翠眼の破邪

 人への影響力も大きく、物騒なのでと“邪妖”と呼ばれるそれら陰体の中には、こっちの世界で体から離れた魂魄も入っており。そんな存在の気配が見えることから、それらにまとわりつかれることの多かったルフィへと。正しい処し方、正しい強さと優しさを教えたのもこのゾロだ。本人が言うには、
『お人よしな誰かさんが迷える霊体を昇天させないで招いたお陰様、妙な歪みが出来てやがったもんだから、仕事増やされちゃあ溜まんねぇとだな…以下省略』
 という、白々しい言い訳の末に。ルフィへと集まるおっかないものを片っ端から成敗するお役目を担ったのが、かれこれ何年前の話となるのやら。

 「何だか波長が妙ではあるが、こんな匂いには覚えがある。」
 「匂い?」

 自分の広い背中の陰へと、守護すべき坊やを匿いながら。さりげなく、ゾロがまずはと周囲へ展開させたものがある。通りすがりの誰かしら、何も知らないままにひょっこりと、この場へ踏み込むものがないように。何とはなくこっちへ来てはいけないような気がしてしまうようにという範囲暗示をかけておく。そんな程度じゃあ危険だという手合いの場合は結界レベルの障壁を張るのだが、そうまで危険な相手な場合は、結界のオーソリティ様がやはり気配を察知して駆けつけているはずであり、
“サンジが出て来ないってことは、大した相手じゃないってことかな?”
 でもでも、それにしちゃあ ゾロの身構えが少々大仰。それにさっき“匂い”って言ってた。
「俺らが相手してる陰体とは微妙に違う、でも実体は無い存在がな、ここんとこあちこちで悪さをしてやがる。」
「実体がないのに…陰体じゃないの?」
 陰体というのは、本来は陽世界に居ない存在だから。殻がないことから生気を保持出来ず、その身を保てない恐怖から大暴れする。若しくは、その身を分解させながら周囲の空間に歪みを作ってしまう。そんなこんなから混乱が起きぬようにと、成敗役に派遣されているのがゾロやサンジだったりするのだが、
「陰体じゃないってことは、陽世界の人なのか?」
「さあな。ただまあ、人じゃあなさそうではあるけどな。」
 彼らがその身を向けた方向の、足元のアスファルトから。砂で出来た妖怪みたいな何物か、ずざざぁと迫り上がるよにして出てくるではないか。人間大の昆虫かな、触覚みたいなものがある。でも、鋲がついたベルトみたいなの、腰とか肩とかに巻いてもいる。だったら元は人間なのかも? 全身が現れても砂みたいな不確かな印象は拭えない“そいつ”は、

 《 そこの坊主。何か望みはないか?》

 大柄なゾロの背後に隠れているルフィの側へと声を掛ける。
「?」
 なんで自分へなんだろかと、不審に思いつつも答えないでいると、
《 そんな妖異に取り憑かれているのはイヤじゃあないのか? 何なら俺が祓ってやろうぞ。》
 手に持っていた…もしかして玉串らしい錫杖のような棒を振って見せるから、もしかしたらば神主さんか何かの成れの果てなのかしらと思ったものの、

 「人を“妖異”呼ばわりとは大きく出やがったな、化け物よ。」

 しっかりとむっかり来たらしいゾロが、背中を堅くしたのが伝わって来たもんだから。あああ これは怒ったな、真剣本気でかかっちゃうなと思った端から、

 「来やっ!」

 高々上がったその手へと、何もない中空から招かれたは、黒鞘の和刀作りになった一振りの大太刀。異世界である陽世界に来たっても存在し得る邪妖らを、叩き伏せての消滅させるだけの覇力を発揮する“精霊刀”という武器だ。骨太でがっつりと大作りなゾロの手に、収まってなお威容を放つ大太刀を、腰へと引き据え、身構えて。柄へとかかった利き手が鯉口を切ったその瞬間に、

 《 おおっ。》

 刀身から光が放たれているかの如くに、力強い輝きがどんと溢れ出て。砂細工のような姿だった怪しい影が、その表面のあちこちをばさんどさんと弾けさせる。
《 な、なんと。とんでもない覇力よの。》
 まだ実体化していない身、それへの影響を加えられる何かには覚えがなかったものか。少々まごついての後ずさりを示したところへ、

  待て待て待て待ていっっ!

 勇ましい声が唐突に割り込んで来たもんだから、

  ―――――はいぃい?

 色んな意味合いから、それぞれがギョッとした。まずは邪魔が入ったことへと怪人がギョッとしたし、
「な…っ!?」
 破邪殿が張っておいた範囲暗示、それを物ともしないお人なんてのがいたのかと。多少なりとも自信があったのを挫かれたゾロがギョッとし。
「…え?」
 最後にギョッとしたルフィだったのは、目の前へ現れた人に見覚えがあったから。異様なくらいに威勢がいいけど。ワイルドな髪形の中、赤いメッシュまで入れてる強気のいで立ちも、何だからしくはないのだけれど。腹の底から張り上げたお声の力強さも、これまでの“彼”にはなかった溌剌さなんだけれど。

 「…もしかして、良太郎兄ちゃん?」

 何とも気弱そうで、いつも子供扱いされるルフィととっつかっつな印象が拭えぬ、大人しげな彼しか知らないルフィには。思いっきり駆けて来たその青年が、見知ったお人でありながら、なのに全くの別人にも見えての混乱もしきり。迷いもないままこちらへと駆けつけ、胸を張っての立ち姿がまた何とも凛々しく頼もしく。とてもではないが、腕相撲をしても愛理さんに負け通しの、あの良太郎さんと同一人物には到底見えないのだが。

  そこのイマジン野郎っ!
   それから、そっちのチビに憑いてるややこしいのもっ!
   今ここでこの俺様が引導渡してやっから、大人しく成仏しなっ!

 びしぃっと指さされたゾロが、何だとこらと息巻くのを、あわわと押さえたのがルフィであり。そんな彼の耳へと届いたのが、
《 モ、モモタロス、ルフィくんの方のはまだ悪者と決まった訳じゃあ…。》
 どこか頼りない細々としたお声。そっちの方こそ、聞き覚えがあったので、


  「…っ! ゾロっ、あのお兄さん、何かに憑かれてるから助けてあげてっ!」
  「おうさっっ!」

   何だとごらっっ! 何か憑いてるってのは俺のことかっ!
  《 モ、モモタロス。イマジンを見失っちゃうから怒るのは後にした方が…。》


 み、皆、この際だから一旦落ち着かないかっ? ねっ?ねっ?
(笑)




  ◇  ◇  ◇



 イマジンとやらは実体化する前に電王に見つかってはまずいのか、ちょいと注意が逸れた隙をつき、そそくさと退散してしまい。一番怪しい存在にまんまと逃げられたことが、お互いによっぽど腹立たしかったか、
『何だ、この生意気な坊主はよっ。』
うっせぇなっ! お前こそ怪しい野郎だ、正体を現しなっ!
 喧嘩はダメだったらと、懸命に腕を引いての羽交い締めもどきまでして、ルフィが引き留めている側のゾロはともかく。生意気な坊主と言われて怒髪天な状態にもかかわらず、何故だか…掴みかかりはしないで、腕やら足やら目に見えない何かに引き留められているかのような状態のままな男性の方が、やっぱりルフィには不審でならず。
『あのな? やっぱり…リョウタロ兄ちゃん、なんだろ?』
 足場ごと引き摺られそうなほど力の強い大型犬の、首輪につないだリードを頑張って踏ん張って引き止めつつという構図にて。何とか声を振り絞ったところ、そんな様子に心打たれたか、

  チッ。何か気が抜けちまった。

 忌々しげな捨て台詞を吐いて、がくりと肩から力が抜けたかと思ったら、
『あ、あれ? モモタロス?』
 再びお顔を上げたその途端、がらり、雰囲気の変わった様子になってしまった彼だったから。

  『………はいぃぃい?』×2

 ルフィのみならず、ゾロまでが眸を剥いてしまったのは言うまでもなかったり。そうして、

 『何をどう説明したらいいんだかなんだけど…。』

 あのような取り留めのない怪しい存在へ、なのに逃げもせず唖然ともせず、むしろ自分から攻勢に出ようとしていたゾロだったことをどう思ったか。…少なくとも化け物に慣れがある人らしいなと感じたらしい良太郎さん。それでも口外するのは少々ややこしい事情だからと、こっちこそがルフィからすれば“相変わらず”の及び腰にて語って下さったのが、

 @今の時間軸の“過去”へ行く手段を手に入れるため、
  人を伺い、望みを言えと擦り寄っている妙な存在がいること。

 Aいい加減な叶え方をした末に、
  契約を完遂したその人の身をトンネルにして過去へ飛び、
  そこで暴れて“現在”を根こそぎ潰してしまわんとする輩。

 B放って置いたら今現在が崩壊しかねぬ。現にそれで喪われた未来もあるのでと、

 それで そやつらを片っ端から倒していると、話して下さった良太郎さんは、何だか慌てた様子で呼びに来た女の人と一緒に駆けてってしまい、

 それってホンマか、ハナ。
 『ホンマ…って、何でキンタロスが出て来てんのよっ!』
 今“泣いた奴がおる”言うたやないか。
 『違…っ、ああもうっ、何でもいいから急いでっ!』

 ここから駅はずんと遠いはずなのに、妙に間近に警笛の音がファーンッと聞こえた。あっと言う間のこと過ぎて、話してもらったことを確かめる間もなかったから…何が何やらよく判らないままなんだけど。

 「なあゾロ。」
 「何だ。」
 「もしかして、リョウタロ兄ちゃんも、俺みたいな秘密持ちなんだ。」
 「そうかもな。」

 出したままだった精霊刀をほいと宙へと溶かし込みながらという、投げやりな態度へ紛らわせ、やっぱり投げやりな応じ方をして見せたゾロだったものの、


  「だから兄ちゃん、縁起が悪いのかなぁ?」
  「? 何だそりゃ?」
  「だって兄ちゃん、しょっちゅうコケてるし。
   言い掛かりとか つけられやすいって言ってたし。」
  「…もしかしてそれって、運が悪いって奴なんじゃないか?」


 それか、ツキがないとか験
(ゲン)が悪いとか。縁起が悪いとは言わないのか? 微妙に違うぞ。微妙か、間違えないように気をつけよっと。そいでもって、次に会ったときに話してみよっか。ゾロは別に俺に憑いてる訳じゃないんだよって。邪妖っていうのを退治出来る能力者だってだけで、でも人間でもないから、お兄ちゃんに憑いてる人から怪しいって思われたのかもって。そいから、兄ちゃんに憑いてるのって、一人だけじゃあないの?って。そんなこんなと考えてたら、何をにやけてんだって、ゾロから軽くこづかれちゃったけど。だって何か楽しいんだもん、しょうがない。何かと戦ってるらしいリョウタロ兄ちゃんに、俺も応援するからって言ってあげられるのが、励ましてあげられるのが嬉しいんだと思う。


  ―― さあ帰んぞ。
      余計な時間使っちまったから、
      せっかくのトコロテンがぬるくなってるかもしれんな。

      えーーーっ! ところてん!!

      名前だけ叫ぶな。妙な奴だと思われっだろうが。
      それよか、明日は何が食いたい?

      え?

      明日はお前の誕生日だろが。
      ケーキはサンジに任せたけどよ、メインは俺が…って、
      だ〜〜〜っ、こらっ!
      重いからいきなりおぶさるなっっ!///////////




   〜Fine〜  08.5.08.


   *いつも楽しい可愛い絵手紙を下さるIさんから、
    ルフィBDに寄せての『電○』ネタをいただきまして。
    (言わずと知れた、東映さんの仮面ライダーシリーズですvv)
    何かが憑きやすいところが似た者同士な
    “天上の海〜”のルフィとリョウタロ…という表現に
    大いにウケてしまっての、掟破りを書かせていただきました。
    こういう企画ででもなけりゃ出来ないことですよね。
    苦手な方、何がなにやら判りにくかった方には相済みませんでした。
    でも、書いててとっても楽しかったですvv

    あああ、こんな形でお侍様とのコラボも書きたかった。
    でも、あっちだともぐり込ませようが無さすぎる…。

めーるふぉーむvv めるふぉ 置きましたvv

bbs-p.gif**

戻る